「統計不正問題」製造業の社内集計資料のブラックボックス化がもたらす影響とは?
昨年末明るみに出た、厚生労働省の毎月勤労統計の不正集計を巡り、今日現在(2019/2/8)も国会で紛糾しています。
政府や国としての施策や予算に多大な影響を与える統計資料ですから、当然です。
真相究明やその是正および雇用保険や労災保険の追加支払い等、早期に対応してもらいたいものです。
当然ですが、不正な集計データを起因とする、施策や予算の間違いは、何も国だけの話ではありません。
例えば、製造業であれば、多数の集計データや帳票があり、製品の製造・在庫・売上集計であれば、材料仕入や工場負荷、生産計画にも大きく影響を与えます。
原価情報の集計であれば、会社全体の損益計算や経営戦略立案、ステークホルダー報告に影響を与えます。
第44回 生産管理コラム 「無資格検査問題!現場力低下の指摘は早計?」
でも記述しました、無資格検査問題や統計的品質管理(デミング賞)も関連した話しでした。
また、企業会計であれば、財務会計パッケージソフトを使うから「不正は無い」ではなく、企業会計原則として以下のような7つの一般原則
1. 真実性の原則
2. 正規の簿記の原則
3. 資本取引・損益取引区分の原則
4. 明瞭性の原則
5. 継続性の原則
6. 保守主義の原則
7. 単一性の原則
を前提に使わなければいけません。
個々の説明は省きますが、これ以外にも、貸借対照表原則、損益計算書原則もありますし、原則以外にも会社法や金融商品取引法など会計処理に定める「ルール・法律」はたくさんあります。
一定のロジックに則った正規の財務会計パッケージを使っても、恣意的にデータを入れれば「粉飾決済」はできてしまうのです。
先の厚生労働省の不正集計でも「統計の集計ルール」はあります。
しかし、そのルールに沿っていなかったり、それらを発見し是正するレギュレーション(規則や規定)が無く、ガバナンスも有効に働かないまま、何年間も不正が行われてきたため問題となっています。
では皆さまのパソコン内にある表計算ソフト(エクセル等)の集計表ファイルは「集計ルール」「チェックルール」が定められていますでしょうか?
社内の他の人に説明をされていますでしょうか?
または、不正を発見し是正するレギュレーションはありますでしょうか?
「セルとセルの計算式をいちいちルールや定義なんか決めていないし、チェックも出来ないよ」とか・・・
「自由に好きなように集計できるから、表計算ソフトを使っているよ」等の声が聞こえてきそうです。
もちろん、「自分のための集計であり、自分が判り、納得できれば良い」資料であれば問題はありませんし、簡単な四則演算は、他人が見ても簡単に判るかもしれません。
実際、新システムの業務ヒヤリングなどで現場を訪問すると、これら集計表や資料を「元データ」として、生産管理管理システムや会計システムへデータが入力されている場合や、これら集計表を元に計画や工場施策が組まれる場合が多いように感じます。
問題になるケースとしては、マクロやVBAなどで「属人化」した処理・ロジックが、上手く引き継ぎができず、何年間も「ブラックボックス化」している場合です。
私も、客先の原価集計エクセルを紐解き、分析した事が何度もあります。
「長年、このエクセル表に入力し集計して来たけど、どうゆう計算式かは知らない」
「本来の計算ロジックを決めたいが、どう決めて良いか判断がつかない」
の声を聞きます。
製造現場の情報収集は、
「工場現場の時々刻々に発生する生産情報を、その発生源である機械・設備・作業者・ワーク(加工対象物)の4つのところから直接に(ペーパーレス)採取」が理想です。
これは、
第19回 生産管理コラム 「今ふたたび POP(生産時点情報管理)とは?」
で記述したPOPの定義です。
さらにPOPでは、「これらのデータをリアルタイムに情報を処理して現場管理者に提供すること。また、現場管理者の判断結果を現場に指示すること」と、効率化、生産性向上への活用も定めています。
POPからの情報は「生産管理システム」へと連携され処理され集計します。
生産管理システムのデータベースからは、BIツール(ビジネスインテリジェンス)のソフトを使い、定義をつくり集計分析します。
定義体は必要に応じ公開され、誰でも判るようにします。
また、BIツールを使う場合は、「ドリルダウン」(集計階層を掘り下げて行く)機能を使い、マクロからミクロへ、ローデータ(Rawデータ:生データ)へ遡及し、その集計の活用性や正確性へ利活用できます。
多種多様で大量のデータ処理を行う必要がある中、誰もが恣意的にデータ改竄をするわけでは無いと思いますが、知らないうちに不正集計をし続けないような対策は、やはりある範囲ではシステム化を図る必要があると思います。