生産管理システム再構築 パッケージ、アジャイル、スクラッチ、どれが最適か?
■基幹システムの再構築は自社の現状と目的に応じて最適な手法を選択することが不可欠
弊社への生産管理システム再構築の依頼が増加しています。
再構築の理由は、既存の基幹システムが時代遅れで、自社のビジネスモデルの変化に適応せず、非効率な点が目立つこと、そして最新のITツールなどを積極的に活用する必要性が高まっているためです。
生産管理システムの再構築手法として、主にパッケージ利用、アジャイル開発、スクラッチ開発の3つが考えられます。
これらの手法の特徴、メリット、デメリットに加えて、既存システムの状況だけでなく
人材、物品、資金、情報などの経営資源に基づいた選択肢を見ていきましょう。
1. パッケージ利用
パッケージ利用の特徴は、開発ベンダーが予め用意した多数の機能を利用でき、一般的に安定性と継続性が保証され、システム導入が短期間、低コストでの実現が可能です。
メリットとして、自社のビジネスモデルに合った製品を選びやすく、費用対効果が計画できます。
自社にITや開発の専門部隊が不在でも、開発ベンダーからのサポートを受けることで、問題解決や長期運用が可能です。
一方、デメリットとしては、カスタマイズが難しい場合やビジネスニーズに合わせた調整が制限されること、ライセンス料や利用料が発生することが挙げられます。
2. アジャイル開発
アジャイル開発の特徴は、ツールを活用して短期間で反復的に開発を進め、開発期間とコストを効率化できること、段階的に柔軟に開発できること、要求に迅速に対応できることです。
メリットとして、ユーザーの要望に合わせた開発が容易で、開発過程が透明化し、問題や課題が早期に発見でき、修正できることが挙げられます。
一方、デメリットとしては、不確実性が高いため、スケジュールや予算の管理が難しいことや、継続的なコミュニケーションが必要で、自社リソースに負担がかかること、また、開発ツールの機能制限で要求が実現できない可能性があることが挙げられます。
3. スクラッチ開発
スクラッチ開発の特徴は、ソリューションを完全に自社の要件に合わせて開発できることです。
メリットとして、自社ニーズに完璧に合致でき、独自で特徴的な機能を実現し、競争優位性を持つシステムを構築できることが挙げられます。
デメリットとしては、開発に時間とコストがかかること、開発プロセスが複雑で、開発者やベンダーによる属人化やブラックボックス化などの保守性リスクが高まること、要求仕様に適切な自社人材や検証・テスト人材を確保する難しさがあります。
これらの手法選定は、既存システムの状況に加え、自社の経営資源に依存することもあります。一般的なケースをいくつか見てみましょう。
【ケース1】
自社にIT部門がなく、業務は一般的なビジネスモデルで、既存システムはパッケージであり、MRP機能を利用しているが保守が切れている。
最新の機能を追加して、新たな業務モデルを短期間かつ低コストで構築したい。
【選定】
◎パッケージ利用 ×アジャイル開発 ×スクラッチ開発
【理由】
現場がパッケージ利用に慣れているため選定がし易い。マスタ移行が比較的容易で、自社のリソース不足でも実現可能。MRPエンジンの新規開発は難しいため、パッケージの有効活用がベスト。
【ケース2】
自社に少数のIT部門があり、業務は一般的なビジネスモデルであるが、一部独自業務は既存パッケージ外で自社開発ソフトを使用している。
自社開発ソフトは新システムでも利用したい。
【選定】
〇パッケージ利用 △アジャイル開発 ×スクラッチ開発
【理由】
主要業務は新しい生産管理パッケージの一般的な機能で早期実現の可能性が高い。自社開発機能を1から再開発するのは投資効果が得られない。新しい生産管理パッケージにアドオンで連携を図ることを検討すべき。経営資源に余裕があり、将来的に独自業務が拡大する場合はアジャイル開発を全体で採用する方法も検討できる。
【ケース3】
多くの部門があり、各部門が特定の業務に特化して競争優位性を持っている。各部門がAccessなどを使用して独自に開発・管理しており、基幹システムは古いホストで自社開発ソフトを使用しているが、統合性が不足し、経営視点の情報戦略の策定が難しい。
【選定】
〇アジャイル開発 〇パッケージ利用 ×スクラッチ開発
【理由】
経営資源に十分な余裕があり、競争優位性を維持し拡大するために、全体的にアジャイル開発を採用する方法がある。生産管理パッケージを使用する場合、アドオンが多くなる可能性があるため、利用可能な範囲を制限して活用する方法も考慮すべき。
上記のケース例では、スクラッチ開発を選択するケースは見当たりませんでした。生産管理システムの更新においてパッケージ利用が多い理由は、他の業務システムと異なり、内部処理が複雑であるためだと思います。生産管理の機能は、外部から見える体積(画面や帳票など)と内部処理(プログラムロジック)の体積は大きく異なるため、アジャイルやスクラッチでの開発に取り組む際には、時間と費用がかさむ可能性が高いためです。ただし、革新的な生産管理システムを目指す場合など、特定のケースではスクラッチ開発が必要とされることもあります。その際は、綿密な計画と組織のリソースを駆使して取り組む必要があります。
古くて機能豊富な既存の基幹システム更新は、グランドデザインや実現方法に関する課題が多いことがあります。
その場合、本コラムで言及された「スサノオ・フレームワーク」のように、既存の要素を切り離して再構築するアプローチも有用かもしれません。
このアプローチは、存在するものを価値あるものに変える発想であり、一考の余地があります。
今回は、生産管理システム再構築の手法についてご紹介しました。
生産管理システムは企業の経営に大きな影響を与える重要なシステムです。
再構築の際は、既存システムの状況に加えて、自社の現状と目的に応じて最適な手法を選択することが不可欠です。