製造業の「モノからコト」へのシフトとは?顧客経験価値を高めるポイント
●マーケティングとしての「モノからコト」を考える
マーケティングの格言に「ドリルを買う人が欲しいのは穴である」という言葉があります。
50年前、米国ハーバード大学教授のセオドア・レビット博士が発表した「マーケティング発想法」という本の中で紹介されたものです。
(日本では原文から少し意訳されて伝わっています)
意味としましては、顧客はドリルが欲しいわけでは無く「穴を開けたい」ということがニーズであって、ドリルが売れた表面的な状態だけを見ていてはダメだ! という事です。ドリルに代わる、もっと安価で丈夫な「穴を開けるモノ」があれば、代替されるという意味でもあります。
本コラム第11回「取引構造のメッシュ化とマーケティングはできていますか?」でも書きましたが、現代マーケティング論で著名な米国経営学者であるフィリップ・コトラー氏が言うには、
「ニーズ」とは、欠乏を感じている状態である。
「欲求」は、人のニーズが具体化したものであり、
「ニーズ」を満たす特定の対象のことである。
「需要」は欲求に購買力が伴う事である。
これを「穴」に当てはめてみると、下記のようになります。
「ニーズ」は「穴を開けたい」
「欲求」は「ドリルで1インチの穴を開けたい」
「需要」は「1インチの穴を開けるために1ドルを払いドリルを買いたい」
少し無理矢理感がありますが、いずれも「ナニナニしたい」です。つまり「体験/経験」です。
●製造業の「モノからコト」へのシフトとは?
さて、今回のテーマは「モノ」と「コト」です。
「時代はモノ消費からコト消費へ」そのような表現をするニュースを多く見かけます。
商品の「所有に価値」を見出す消費を「モノ消費」、商品やサービスを購入したことで得られる「体験/経験」に価値を見出す消費を「コト消費」といいます。
上記の例であれば、ニーズ・欲求・需要はいずれも「コト」と言えます。
ものづくり製造業では、材料や原料に付加価値をつけ、見える姿・形に変え、ドリルのように「モノ」として消費者へ届けます。
別の例では、装置産業の機器(モノ)を製造販売し、保守サービス(コト)でさらに顧客価値を維持管理するイメージです。
最近は、付加価値(収益)として、前者ものづくりより、後者の保守サービスがより高く、「バスタブ曲線」(U字型のグラフ)として表されます。(もう片方の高い付加価値は設計)。
ただ、多くの中堅中小の製造業では、このような「コト消費」について深く調べたり、マーケティングを行う力は弱く、相変わらず「安くて良いものは、売れる」的ものづくり志向が強いのではないでしょうか?
製造業にとって「モノ」と「コト」はセットのはずです。自社製品の顧客経験(Customer Experience)を如何に把握するか?
「コト」を「モノ」にどう活かすか、または「モノ」を「コト」にどう活かすか、相互に関係を持つ必要があるように思います。
このように、顧客側の視点に立って「顧客が商品を買う過程でどう感じたか」を管理する 考え方は「顧客経験価値」(Customer Experience Management)といいます。
カスタマーエクスペリエンスマネジメントには、それを考える以下のような切り口あります。
- Sense
顧客にどのような感覚を持ってもらうか - Feel
顧客にどのような情緒になってもらうか - Think
顧客にどのような好奇心を持ってもらい、何を創造してもらうか - Act
顧客にどのように体感してもらうか - Relate
顧客に他者とどのような一体感を感じてもらうか
また、顧客経験価値を高めるには、以下のような切り口のプロセスがあります。
- モニタリング
顧客をより深く知る - 分析
モニタリングした結果から、顧客に対して最適な顧客経験価値を導き出す - 計画
分析結果に基づき顧客経験価値を設計・創造する - 実行
計画にて設計・創造された顧客経験価値を実際に行う
上記4つの要素をプロセスとして繰り返し管理します。PDCAとほぼ同じですね。
モノが氾濫しているなか、「よいモノ」を「ほしいモノ」に変えるためのコトづくりは、今後益々ものづくり現場では、欠かせないものになると思われます。
さて、皆さまの製品「モノ」に対応する「コト」はなんでしょうか?