「2025年の崖」はどうなったのか? 2026年は静かに企業体力を削る"慢性疾患"へ?
経産省が警鐘を鳴らした「2025年の崖」は、当初予想されたような劇的な崩落には至りませんでした。しかし、中小製造業に目を向けると、崖はむしろ長期化し、問題は深刻さを増しています。老朽化した基幹システムやExcelが今も現役で稼働し続け、属人化とブラックボックス化が進行しているためです。
製造業は「止められない現場」を抱えるがゆえに、システム刷新が後回しになりがちです。 さらに、過去のカスタマイズが積み重なり、現場が慣れた操作を変えにくいという事情もあります。 社内のIT人材不足も重なり、レガシーシステムの延命が続いていると考えられます。レガシーシステムの維持コスト増、人材不足、ブラックボックス化などの問題はむしろ深刻化しています。 つまり「2025年の崖」は派手な崩落ではなく、静かに企業体力を削る"慢性疾患"として現実化し、2026年を迎えたと言えるでしょう。 一方で、IT化・DX化が進み崖を回避した企業もあり、レガシーを抱えた企業との差はより鮮明になりました。
今から何をすべきか
ポイントは 「全部を一度に変えようとしない」ことです。 現場の改善文化を活かしつつ、負担の少ない領域から段階的に進めることが成功の鍵となります。慢性疾患の対策が生活習慣の見直しから始まるように、DXも足元の整理から着手することが重要です。
1.現場の「Excel」を棚卸しする
製造業のレガシー問題の根は、システムそのものよりも、現場に残るアナログ運用にあります。紙の作業指示書、独自フォーマットのExcel、ベテランだけが知る段取り、設備ごとに異なる記録方法など。これらは情報の分断や属人化を生む要因となります。まずは 「どの情報がどこにあり、誰がどう使っているのか」 を棚卸ししてみてはいかがでしょうか。棚卸しをせずにシステム刷新を始めると、新たなレガシーを生む可能性があります。
2.属人化している工程・判断を「標準化」する
DXの本質はデジタル化ではなく、標準化 にあります。もちろん、独自技術や自社固有の業務など、競争優位につながる領域は高度化すべきです。一方で、競争優位の源泉を見誤らないことも重要です。以前このコラムで紹介した「きこりのジレンマ」では、優秀な木こりの強みは斧やチェーンソーといった道具ではなく、「木」や「森」の特性を理解している点にあると述べました。
< きこりのジレンマ >
https://www.r-pics.com/success/column/_83dx.html
作業手順の明文化、設備点検のチェックリスト化、不良判定基準の統一、Excelフォーマットの統一など、まずは現場のばらつきを整えることが重要です。標準化されていない工程をシステム化すると、現場が混乱し、結局Excelに逆戻りする可能性があります。
3.コスト・労力・成果享受のバランス
中小製造業がいきなり基幹システムを全面刷新するのは現実的ではありません。コスト・労力・成果享受のバランスを考える必要があるためです。費用対効果が高く、現場の負担が少ない領域から着手することを検討すべきでしょう。特に優先したいテーマは次の3つです。
・生産計画:ものづくりの起点であり、見誤りのリスクが大きい
・購買・在庫管理:過剰在庫・欠品の削減効果が大きい
・受注・出荷管理:効率とタイミングがサプライチェーン維持の要となる
4.製造業DXは"現場改善"の延長線上にある
製造業はもともと改善文化を持っています。5S活動、QC活動、ZD活動など、現場では日々改善が行われています。 だからこそ、DXも 「現場改善 × デジタル」 と捉えることで成功しやすくなります。
一方、経営方針、経営革新など企業全体の方向感を持って、DXを行う事も当然必要です。そういう意味では、延長線が目指すそのベクトル(大きさと向きを持つ量)の先は、この方針と同じでなければなりません。
「2025年の崖」は終わったわけではなく、今も静かに続いています。2026年度は、生活習慣病を改善するように足元を整え、健康な身体と強固な筋力(DX)を育てる一年にしていきましょう。その積み重ねが"格差"を乗り越える力になるはずです。