【日本の製造業・生産管理の立て直しの課題と改革の方向性】 第七回 生産特性による生産管理のモデル化
●生産マネジメントと工程管理のフレームワークの再確認
あらためて確認しましょう。生産管理は、生産マネジメントと工程管理/製造管理の階層を持っています。生産マネジメントは生産計画-原価計算のレイヤーで、工程管理/製造管理は製造指示-製造実績のレイヤーです。
生産マネジメントでは、基準生産計画を立案し、製造順序計画である小日程計画を立案し、製造指図を発行します。また、生産計画または小日程計画をベースに所要量計算(MRP)を実施し、購買指図を発行します。また、基準生産計画に基づき、人員計画、生産能力計画を立案しつつ、主にヒト・モノに関わる計画では収益に直結する"お膳立て"をします。
工程管理/製造管理は製造指図を受けて、製造指示を行い、製造実行を行います。また、購買指示を受けて購買発注を行います。その後、投入、製造完成、購買入庫の実績を収集し、実績報告を行います。実績としては、原材料、半製品、製品の在庫の受け払いを行い、出来高やロスを追い、品質実績と作業実績を収集するのです。
工程管理/製造管理で収集した実績は原価計算に使われます。工程管理/製造管理から生産マネジメントに提供された実績で、原価が計られ、収益の管理がされます。
●生産管理は生産特性によって変わってくる
生産管理の書籍は多く出ていますが、そのほとんどは組立生産における生産管理を下敷きにしています。組立生産とは、部品から製品を組立てる生産形態で、製品も部品も1個、2個と数えられます。
しかし、生産の仕方は組立ばかりではありません。液体や粉体、練り物、金属、樹脂などは1個、2個とは数えられません。gやKgやトン、立米(㎥)やリットルで数えられたりします。こうした生産ではタンクを使ったり攪拌機を使ったりします。生産の仕方が組立と大きく違うのです。
組立生産方式は、離散系と呼ばれたりします。モノが独立して数えられるからです。一方で、流体や粉体を扱う生産方式は連続系と呼ばれます。連続系は、生産の仕方としてプロセッシングを行うということでプロセス生産ともよばれます。
多くの生産管理の教科書・書籍は離散系、つまり組立系を主軸に書かれます。しかし、日本の多くの製造業は、連続系であったり、連続系と離散系の組み合わせだったりします。本来、その離散・連続ともに語られるべきですが、連続系に関してはあまり生産管理上語られていません。
私の実務経験からいうと、離散系も連続系も、その複合形態も当然存在します。過去、製薬、トナー、接着剤、食品、飲料、セラミック、陶器、半導体、プラスチック容器、製紙、製鉄・精銅、香料などのクライアントの仕事をしてきましたが、特に連続系に関しては経験的に枠組みを作らざるを得なかったとも言えます。
離散系と連続系の違いは大きく、どちらか一方の知識と経験だけで他方を理解するのは困難ですし、まして有効な改革や有意義な業務・システムデザインを行うことは困難です。
JIT(Just in time)系のコンサルタントが組立生産ではない分野、たとえば食品や半導体の工場で、JITや後引きなどを導入しようとして失敗しますが、それは離散型、かつフローショップ(流れ生産)で培った管理方式をバッチ生産型の連続系、あるいはジョブショップ(設備を渡り歩く生産)にそのまま導入しようとするからです。(フローショップやジョブショップといった工程の考え方は、別の機会でお伝えします)
今回のコラムでは、離散系:組立生産と連続系:プロセス生産の相違点を示して、少しでも生産管理の構築の推進に役立てればと思います。
●離散系:組立生産における生産管理の特性
生産管理の書籍の多くは、主に組立生産を前提に書かれています。組立生産の特徴は、数が1個、2個と数えられることです。
製品から部品、さらに子部品、孫部品と構成が定義できます。こうした構成情報をBOM:Bill of materialと言います。たとえば、乗用車を作るとすると、BOMには車輌1台作るのに、タイヤ4、ハンドル1、フロントグラス1、サイドミラー2、などと構成部品が登録されていきます。
たとえば、基準生産計画で1,000台を決定した場合、BOMにもとづいて構成部品の所要量が展開され、総組1,000台、ボディー部品組立1,000台、エンジン部品組立1,000台、などと計画が展開されます。さらにこの子部品の組立、さらにその加工といった順に、それぞれ、何台・何個ずつ作るべきか計算されます。
この基準生産計画をインプットに、1日の中の生産順序計画を立案します。これが小日程計画(またはスケジューリング)と呼ばれます。段取りを減らすにはどの順番で作るべきか、まとめ生産すべきかどうかを判断し、時間単位の生産順序計画を立てます。この小日程計画が製造指図に繋がります。
組立生産の場合、1台組み立てるのに何分かかるかといった標準時間が測定できます。
稼働時間中に必要な基準生産計画が作りけれるかどうかといったことを、標準時間*生産台数で計算して負荷積みを行い、稼働時間と対比してキャパシティオーバーにならないように再計画を繰り返します。
所要量計算(MRP)では、タイヤ4,000本分、前シート2,000個、後シート1,000個、フロントウインドウ1,000枚、などと計算され、手配されます。(この計算例では歩留まりは無視しています)
標準時間*生産数で時間を計算し、キャパシティの過剰・不足を計算しますし、100個作るときは100個の時間消費、1,000個の時は1,000個の時間消費が計算できるので、とてもわかり易いのです。計画も立てやすく、指示もしやすく、出来高や歩留まりも管理しやすいのです。
●連続系:プロセス生産におけるにおける生産管理の特性
連続系であるプロセス生産の特徴は、釜または窯といった、いわゆるプロセッサーやタンク、炉などが登場することです。生産の数え方として、1個、2個ではなく、バッチで製造が行われ、1バッチ、2バッチと数えられます。バッチにはバッチサイズというものがあり、一度に100リットル作るとか、100Kg作るとかいった容量や重量で測られる生産の基本量があります。
また、ある製品を作る場合は、BOMではなく、レシピと呼ばれるいわゆる成分表があります。製品一単位を作るに際し、どういう原料を、どれくらい使うのかを定義した構成情報がレシピです。
生産への投入時は投入量を計量し、投入します。攪拌機の場合は、回転トルクや温度、水分量、有効成分含有量、気温や湿気など様々な変数を管理しなければなりません。ひとつ条件が違うと生産がうまく行かなかったりします。したがって、製品切り替え後の最初の製造では試し生産をしたりします。
また、回収品の再投入や触媒、母液の回収などといった回収品の再投入があったり、プロセスの途中でできてくる売れる副産物として連産品があったりします。
所要量計算(MRP)の際はレシピが使われます。組立生産のようなBOMと同じように使われます。ただ、調達量の計算時は、半製品や購入原材料の有効期限があり、緻密な管理が要求されます。
特殊な例でいえば、製薬メーカのように、ロット混在を許さず、ロットが変わる場合はロット分割が必要だったりします。
基準生産計画からMRPを回し、スケジューラーを使うという点では離散系も連続系も同じですが、BOMを使うかレシピを使うかの違いがあり、スケジューラーで小日程計画を立案する際は、1個当たりの標準時間を使うか、1バッチあたりの標準時間を使うかの違いがあります。
また、連続系の場合、プロセッサーやタンクの容量によって、必要な生産量より多くの量が生産されてしまう場合も多く、在庫管理や期限管理がより面倒になります。
生産マネジメント上は、資材所量計算:MRPをBOMでやるかレシピでやるかの差でしかありませんし、原価も製造指図に積算するという点では同じです。
ただし、工程管理上は、個数と標準時間と出来高と歩留まりで管理するか、量とバッチ数と出来高・仕損(ロス)で管理するかといった大きな違いが出ます。したがって、工程管理を行うMESはそれぞれに適したMESを使うべきです。
●連続系:プロセス生産と離散系:組立生産の結合モデル
連続系:プロセス生産と離散型:組立生産の結合モデルしたモデルもあります。最初は連続系:プロセス生産、最後は離散型:組立生産というケースは意外とたくさんの例があります。
たとえば、目薬、分包薬、飲料、チョコレートなどです。液体や粉体が充填・包装工程を経て1個、2個と数えられるものになるケースです。
こうした生産方式は混合型としてたくさんあり、それぞれの工程で適した生産管理(生産マネジメントと工程管理)を構築します。
●試作、量産、アフターにおける生産管理の特徴
生産方式ではありませんが、製品のライフサイクルの違いでも生産管理の管理形態が相違します。
試作時は試作用のBOM・レシピが必要ですし、まだ明確に製造用のBOM・レシピでない段階で試作用の購買発注をどうすべきか、また、試作で使った現行生産用の原材料や貯蔵品の在庫引き落としをMESで行うかどうか、引き落とした分の在庫の反映はMESからERPに行うか、マニュアルで行うか、原価の振り替えをERPで行うか、マニュアルで行うかなどの運用によってシステムの使い方が変わってきます。
量産時は既に語ってきた内容です。製品製造が終わり、アフター向けのサービスパーツの生産管理も独特です。構成部品が製品になります。
サービスパーツが量産品と製造設備や部品・原材料を共有する場合、サービスパーツと量産品をあわせて管理しなければなりませんし、その際の負荷計算や所要量計算もあわせて行わなければなりませんし、構成部品を共有するのか、別にするのかも定義が必要です。構成部品の引当方法が変わるからです。
多くの生産管理の書籍や教科書は、主に離散系:組立系で書かれているため、網羅性という点で不十分です。連続系:プロセス生産がある場合は、努力してフレームワークを探すか、経験的に学ぶか、指導を受けるしかありません。生産管理システム構築時は、外部の支援を受けるとしても、連続系の特徴を理解している経験者を選ばないと大変な間違いを犯す可能性があります。注意が必要です。
また、多くの場合、量産時の管理の話で終始しがちですが、試作管理(新製品開発)やアフター管理も生産管理としては重要な項目です。こうしたライフサイクルごとに管理をシステムでどこまで行うか、行えるかもきちんと議論して、できるだけ量産にスムーズに移行し、スムーズにアフターに連携し、生産終了(EOL:End of Life)に持ち込むことも大切です。
生産管理は奥深く、バリエーションが多く、一面的な理解ではなかなか紐解けない世界です。きちんとフレームワークを持って、頑張ってシステム化していきましょう。いつまでも人力生産管理では、早晩行き詰まってしまうでしょう。
第六回 生産マネジメントとしての生産管理のフレームワーク化 はこちら
【ライタープロフィール】
石川 和幸
経営コンサルタント
早稲田大学政治経済学部政治学科卒、筑波大学大学院経営学修士。能率協会コンサルティング、アンダーセン・コンサルティング(現、アクセンチュア)、日本総合研究所などを経て、サステナビリティ・コンサルティングを設立。専門は、ビジネスモデル構想、SCM構築・導入、ERP構築・導入、アウトソーシング導入、管理指標導入、プロジェクトマネジメントなど。 著書に『図解 SCMのすべてがわかる本』『図解 生産管理のすべてがわかる本』『在庫マネジメントの基本』(以上、日本実業出版社)、『思考のボトルネックを解除しよう!』、『見える化仕事術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『なぜ日本の製造業はもうからないのか』(東洋経済新報社)、『エンジニアが学ぶ物流システムの「知識」と「技術」』(翔泳社)、『アウトソーシングの正しい導入マニュアル』『図解 工場のしくみが面白いほどわかる本』(中経出版)など多数。