DX投資促進税制とは?製造業はどのように利用できる?

■ 中堅中小製造業の生産管理システム等のIT投資等に利用できる?

 令和3年8月2日、産業競争力強化法等の一部を改正する法律が施行され、「事業適応計画」という申請受付が開始しました。
この中に「
DX投資促進税制」があります。

「DX投資促進税制」は、中堅中小製造業の生産管理システム等のIT投資等に利用できるのでしょうか?
お客様から問い合わせがありましたので、少し調べてみました。

今回の産業競争力強化法等の一部改正では、強化を図る取組を「事業適応計画」とよび、以下の3つの大きな柱(類型)を掲げています。

1.成長発展事業適応関連
2.情報技術事業適応関連
3.エネルギー利用環境負荷低減事業適応関連

DX投資促進税制は、2.情報技術事業適応関連として、「デジタル技術の革新により世界で破壊的なイノベーションが起きていることを踏まえ、こうしたDigital Disruptionの動きに対応していくべく、デジタル技術を活用したビジネスモデルの変革(DX)に取り組むこと」と記載されています。

「破壊的なイノベーション」も「Digital Disruption=デジタルによる破壊」も「DXデジタルトランスフォーメーション」もみんな同じような意味で使いますから、何だかややこしく、判りにくい感じです。

DX投資促進税制は、機械やソフトウェアの投資に対し税額を3%(または条件次第で5%)の控除を行うか又は、特別償却で投資額の30%を追加できるというもので、令和4年度末までの時限立法です。
こう書きますと、「それは良い、是非利用したい」と思われるかもしれませんが、この制度の認定要件はハードルが高く注意が必要です。

製造業の場合、経済産業省へ申請を行う必要があります。
認定要件は、「デジタル要件」と「企業変革」の2つがあります。早速、中身を見ていきましょう。

「デジタル要件」

①データ連携 ②クラウド技術の活用 ③IPA(情報処理推進機構)による「DX認定」で構成され、いずれも必須要件となっています。

①データ連携

親会社と製造子会社等グループ会社間の連携や、社内設備のIotデータや外部データ活用を連携したり、得意先や仕入先などグループ外法人とのデータ連携(この場合税額控除5%)が条件です。

②クラウド技術の活用

「インターネット等を介してオープンにデータの処理、保管等を行うことができる技術」と定義されており、オンプレミスの仕組は認められません(社内にサーバーを置き、外部からインターネット経由でクラウド活用させる場合は良い)

IPAによる「DX認定」

少し厄介で、これまでの税制優遇には無かったものです。
情報処理推進機構(IPA)から「DX認定」の認証を得る要件です。 法律の建付け上、「レガシー回避・サイバーセキュリティ等を確保する観点」のためとなっています。 企業経営の方向性やシステム運用の戦略的体制、サイバーセキュリティに関する対策等、多岐に渡る書類が必要です。

「DX認定」をうけた企業は一定の基準を満たした企業として公開され、認定ロゴの使用等が認められ、税制優遇とは別の観点で評価を得た事を証明できます。

もう一つの要件である、「企業変革」を見てみましょう。

「企業変革」

デジタル要件に対しどう変革するかの「企業変革要件」になります。
ものづくり補助金や事業再構築補助金でも同様な要件がありますが、これらと違いこちらもハードルが高くなっています。

① 生産性向上又は売上上昇が見込まれる
  >ROAが2014-2018年平均から1.5%ポイント向上
  >売上高伸び率≧過去5年度の業種売上高伸び率+5%ポイント

② 計画期間内で、商品の製造原価が
  >8.8%以上削減されること

③ 全社の意思決定に基づくもの
  >取締役会等の決議文書添付

同業他社より売上高の伸び率が5%以上高くなる計画であり、計画期間(最長5年)で製造原価が8.8%以上の削減は、販管費等の間接経費を除くはずですから大きなハードルに感じます。


ここまで書いてきますと、この税制を受けるための書類作成の時間や労力がかなりかかり、そしてその減税効果とのバランスが気になってきます。つまり、
 ・3%の税控除額がどの位か?
 ・そのための書類作成や認定作業にどの程度時間や労力がかかるか?
 ・そして認定されるのか?
のバランスです。

中堅製造業が5千万円のクラウド型の生産管理の投資で、機械設備からのデータ連携行い、生産性を向上、製造原価を9%低減させ、売上を5%向上...とした場合。
売上高や減価償却にもよりますが、原価低減と売上向上で利益が増大、つまり納税額も増大。
それに対し150万円(5千×3%)と申請労力とのバランスをどう捉えるか?の検討が必要です。
(注:効果が出る年度と控除申請の年度が同じ場合)
この税制のための投資額の下限は設定されておりませんが、上限は300億円です(控除率3%で税控除額9億)
そして8月23日現在DX認定をうけている企業はまだ20社余りでほとんどが大企業となっている現状から、大きな投資と大きな効果を狙う大企業向け税制にどうしても見えてしまいます。

従って、この税制が効果的に利用できるのか?に対して、
少なくとも、中堅中小企業の少額投資においては難しい...効果的とは言い難い...が私の感想です。

本来、自社が自社のためにDXを行えばよく、減税のための行うわけではありませんので、その点は冷静に判断をすべきかと思います。


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