生産管理システム導入における「モラルハザード」とは?
基幹システムなどを導入する場合、ユーザーとベンダーがプロジェクトを組み、検討、実施していく場合が多いと思います。
例えばユーザーは自社の業務は判るが、パッケージについては充分な知識が無い。
ベンダーは「パッケージソフト」の機能については当然知っているが、ユーザーの業務については充分に把握できていない。
つまり、システム構築のプロジェクトは「情報の非対称性」があるため、互いに情報を出し合い、目的を達成する必要があるために採用される体制です。
特に、生産管理システムのソフトは、買っただけでは稼動せず、業務に合った各種設定やマスターを登録したり、社内の各部門の人が操作を覚える必要があるなど、業務との適合性や運用の定着といった難しい判断を伴う場合も多々ありますので、多くの場合プロジェクトを組みます。
スマホでアプリをダウンロードし、使い始める「ソフト」の場合とは大きく違います。
大きな違いは、「時間」です。
前者は半年とか1年以上かかる場合がありますが、後者はせいぜい数分です。
それから関係者の「数」も違います。
前者はユーザーとベンダーを合わせると、数十名以上になりますが、後者は基本1人です。
その上、費用も違います。
前者は数千万~億。 後者は0円~数百円です。
そういう意味で、アプリをダウンロードするスマホでは過程、つまり「プロセス」と言う概念は無いように思います。
生産管理システムでは、多数の関係者が費用と時間をかける過程、つまり「プロセス」を経て目的を達成します。
そのプロセスでは、ユーザーはベンダーに「ちゃんとシステムを立ち上げてくれるのか?」とか、ベンダーはユーザーに「ちゃんと使ってもらえるか?」など、「情報の非対称」における「モラルハザード」、すなわち相手の「行動を監視」する時間も含まれていると思います。
プロジェクトは「共創」でありながら、コミュニケーションの不足などから、実際はこのような事が起っています。
ここで言うモラルハザードは、道徳心の欠如などの意味ではなく、相手の行動が見えない事による損失(問題)という意味です。
ユーザーがベンダーを常時監視するには、多大な労力を払わなければならないので、それを最小にする必要があります。
一般的にはプロジェクト体制を作り、それぞれメンバーに役割を与え、組織図上の上下左右に確認や報告をする体制をとるのだと思います。
ただ、依頼を受けたベンダー自身も、決められ費用(もらえるお金)以上の仕事を行うと赤字になります。
そのため予め決めた内容と期間で作業を終える必要があるため、ユーザーが、パッケージをどう使うか、決めてもらう項目や事前に準備するデータなどをやって貰わないと作業が終わらず、稼働に至らなくなります。
そのため、仕事の依頼をもらいながら、お客様の行動を監視する関係となるなど複雑な関係になりがちです。
また、システムは、「成果としての品質」として、ものづくり同様QCD(品質・費用・納期)が大事ですが、モラルハザードが起らないよう「プロセスとしての品質」も大事になってきます。
プロセス品質は、例えば「説明が判りやすいか?」「業務をちゃんと理解しているか?」「課題を共有しているか?」、あるいは
「進捗報告があるか?」や「マスターを用意する準備はしてくれたか?」「操作を覚える時間を確保してくれたか?」など互いに不信感を抱かないような「質」の事です。
互いのプロジェクトメンバーが「姿勢や立ち振る舞い」「報告や連絡や相談」を大事して、この監視(費用)を最小にするべきだと思います。
監視は「システム総費用」となり、ユーザーやベンダー互いの負担増となります。
アプリのアイコンをタップすれば、説明書もなく利用されていく、操作指導も不要で直感で判る。
データは手元にあるのか? どこかにあるのか?誰も意識しない。
もはやクラウドなんて事も言わなくなる場合と比較すると大きな差です。
そのような環境の中、多数の人を巻き込み、長く使い続けるシステムでさえも、互いの監視費用が極力不要で、モラルハザードを意識しないでよい仕組みが必要だと思います。
それは、「損失費用(無駄な費用)」は必ず減少方向へ向かうのが常だからです。