製造業における「貿易摩擦」と「比較優位」 その関係とは?
米中貿易摩擦が新聞を賑わしています。
これら輸出入の対象品目を見ると、米国から中国には小麦などの穀物が、中国から米国には電子機器などハイテク製品が多く含まれています。
どちらが先進国?と少し不思議な感じがしました。
さて、貿易の考え方には、「比較優位の原則」という概念があります。
今から約200年前、米国の経済学者リカードが提唱した概念であり、現在でも貿易理論における最も基本的なものになっています。
製造業の場合、自社で加工を行うか? 外注に依頼するか?なども同様に考える事ができます。
数字が多く恐縮ですが、今回は「比較優位」の考え方を具体的に見てみましょう。
まずは冒頭の米中貿易摩擦を例にとります。
中国が就労人口の半分づつで、
パソコンを100万台、小麦を60万トンを作っていたとします。
米国も同様に
パソコンを30万台、小麦を50万トンを作っていたとします。
この場合、どちらも中国が生産量が多く、これを絶対優位といいます。
そこで中国が
小麦の就労者の半分をパソコン生産に移動させると、
パソコンが150万台、小麦が30万トン作れるようになります。
米国は全就労者が小麦の生産をすると、
パソコンは0台、小麦は100万トン作れるようになります。
少し極端な例ではありますが、ここでは人の作業能力等は考慮しません。
そうすると、米中両国の合計は、
パソコンが元々130万台が150万台に、小麦が110万トンが130万トンとなり両国の総量が増えます。
これが、比較優位の基本的な考え方になります。
つまり、中国はパソコンに、米国は小麦に特化すると、総量が増えるという考えです。
ここで、貿易により、中国が米国にパソコンを40万台
米国が中国に小麦を40万トン輸出すると、
中国は、パソコンが110万台(+10万台)小麦が70万トン(+10万トン)
米国は、パソコンが 40万台(+10万台)小麦が60万トン(+10万トン)
となり、特化し貿易をする前よりも豊かになります。
一方的にその豊さに不満を抱き、関税合戦になっているのが、現在の貿易摩擦のようです。
この考えは、各国間の貿易以外にも、人と人でもあてはまる場合があります。
例えば、部下に比べすべての面で自分の方が能力が勝っている人でも、 相対的に優位性がある部下の仕事(比較優位な仕事)を任せ、互いに分業することで、1人で作業するよりも高い効率で作業を進めることができるようになります。
さて、この考えを製造業の自社と外注に当てはめると、同様に以下のようになります。
自社で加工し組立する製品の単位時間当たりの出来高で比較すると、例えば、
部品加工が100本、組立が60台
外注にお願すると、
部品加工が60本、組立が30台
とします。
つまり、自社の方が外注より加工も組立も絶対優位であり、自社は組立に比較優位、外注は加工に比較優位の例です。
部品加工を外注にすべてお願いし、組立のみ自社で行うと(その他条件は前例と同じ)
自社では、
部品加工が0本、組立が120台
外注で
部品加工が120本、組立が0台
となり、結果単位時間当たりの出来高は、両者で生産するより+30台増える事になります。
つまり得意分野に特化したほうが生産性が上がる事になります。
もちろん、現実は自社の負荷状況や取引・輸送コストや品質等の管理コストなど条件が絡み合いますので、例のように単純でありません。
しかし、これまで自社の競争優位だとか、誰にも負けないと考えていた加工や工程などが、比較優位な外注先にお願いする方が、実はトータルでより生産性が高いものづくりが出来る可能性がある・・という事です。
米中の貿易摩擦が、今度は日本を対象に広がりつつあります。
一方的な強弁論でまた、日本の製造業が苦境に立たされるのは、何とか避けたいと思う今日この頃です。