生産システム導入と同時に新たな製造法もスタート
日本瓦斯株式会社
従業員数:201~500名/業種:化学工業/導入製品:R-PiCS V4
会社プロフィール
会社名 | 日本瓦斯株式会社 |
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所在地 | 東京都中央区八丁堀2丁目10番7号 |
設立 | 1955年 |
従業員数 | 699名 |
URL | http://www.nichigas.co.jp/ |
日本瓦斯株式会社様 フィルムで包んだエアゾール缶。
噴射口のフィルムを剥がしてしまえば、缶にプリントされたものや
ラベルを貼っているものと見た目は変わらなくなる。
家庭用エネルギーの販売で知られる、"ニチガス"こと日本瓦斯株式会社。
エアゾール缶の製造・販売を行う部署はもともと生産管理がされていなかったというが、システムを導入したことで、新規事業の発展や社員の意識改革に繋がったという。
大手と同じやり方では競合他社に勝てない
製造業において、業務を円滑に進め、利益を確保するためには、生産管理システムが欠かせない。"ニチガス"の略称で知られる日本瓦斯株式会社では、JBアドバンスト・テクノロジーの生産管理システム「R-PiCS」を取り入れたことで、新たな製造法の導入や社員の意識改革にも役立ったという。
関東圏で家庭用を中心としたLPガス(プロパンガス)・都市ガスの販売をメインに行う同社。1955年に設立され、1964年の東京オリンピックでは聖火台にガスを配給した、大手のエネルギー販売会社だ。
家庭用エネルギー販売のほかにも、カセットボンベやエアゾール缶(殺虫剤や消臭剤などに代表される、缶の中にある液体をガスで噴射するスプレー缶)の製造・販売も行っている。
「缶への充填を扱うメーカーは"ローダー"と呼ばれますが、業界全体を見ると大手3社がシェアの70%を占め、残りを約35社で分け合っている状態です。弊社はメイン事業が家庭用ガスの販売なので、ローダー業界としては中堅企業になります。私は2010年にローダー業の部署を任されましたが、『大手と同じやり方で製造・販売していては、競合他社に勝つことはできない』と感じました」
そう話すのは、取締役 営業本部ライフプロダクト営業部長の田中敏也氏だ。田中氏は赴任後、他社との差別化を図るための戦略を考えるとともに、生産管理の抜本的な見直しを行った。
原価計算とは何か―基礎勉強から始まった業務改革
「私が赴任した当時は、原価計算や資材発注がシステム化されていませんでした。販売支援システムはありましたが、加工賃の計算などできず、生産管理には向いていなかったんです。必要な部材を資材担当者の勘に頼って発注している状態でした。弊社がローダー業を始めた1970年代は小品種大量生産だったので、それで事足りたのかもしれない。
しかし、時代の変化とともに取手工場は、1000種を超える製品を扱う多品種少量生産に変貌していたのです。『不必要なモノを大量に作る』『必要な部材を切らしてしまう』などの問題が日常的に発生していました」
ビジネスにおいて―とくに製造業では、「QCD」(品質=Quality、価格=Cost、納期=Delivery)」が重要視されるが、コスト計算も管理会計の考え方が導入されていなかった。
「財務的な利益は月次で判明しますが、品目ごとの個別利益は判明できませんでした。当然といえば当然ですが、お客様への価格は過去からの経緯や世の中の物価推移、競合他社との条件闘争などで決めるしかなかったと思います。「作ってはいけない製品。作らなくてはいけない製品」がわからない状況の中で、赴任一年目は『原価計算とは何か? 管理会計とは何か?』と生産管理にまつわる本を乱読する日々でした」
生産システム導入と同時に新たな製造法もスタート
その過程で、ERP(経営全体の最適化や業務の効率化を目指す手法や、そのために導入される業務ソフトウェアのこと)について学び、生産管理システムの導入を検討するようになったという。
「はじめに検討したものは、要件定義や運用も自ら学習しながら導入するしかなく、SEができる社員がいるわけでもないので途方にくれていました。たまたま、当社のガス販売部門のシステム変更している会社と面談する機会があり、『R-PiCS』の存在を知ったんです」
「R-PiCS」は日本の製造現場の実情に合わせて改良が重ねられており、あらゆる生産方法に対応している。田中氏は導入を視野に入れつつ、同時に製造方法の変更や、"新たなエアゾール缶"のアイデアの実現にも動き出していた。2011年から12年にかけてのことだった。
「ローダー業が頭を悩ませることの一つに、印刷缶のコストがあります。ほとんどの缶は製缶会社からの購入品になっていますが、製缶ロットが大きいことと納期リードタイムが長いこと。さらに安くない。印刷缶を無地にして紙ラベルを巻くという製法も小ロット生産には有効ですが、上流工程の充填は機械が主役で工数がある程度計算できますが、下流工程の包装は人が主役で品目によって千差万別の仕様があり機械化が難しく、上流工程とシンクロをさせるにはかなりの人手が必要となり、結局はコストとして跳ね返ってきます。何かいい方法がないかと悩んでいるときに、会議で出されたお茶のペットボトルを見て、これをエアゾールにも応用できないかと思いついたんです。いろいろとテクニカルな問題を克服しながら、フィルムシュリンク製法として昨年の10月に『R-PiCS』の稼働に合わせるように、その製法の最初の製品の発売をさせていただきました。無地缶を共通部材化できたことによりQ=質はもちろんですが、お客様が必要な量をC=安価な輸入無地缶で、D=短いリードタイムでお届けできるようになりました」
缶の共通部材化をバックアップするのは『R-PiCS』のMRP機能が資材の必要数を監視しており、過不足のない資材購入を実現しているとのこと。また、リードタイムが短縮され小ロット生産を可能にしたため、買い手作り手が過剰在庫を持つことがなくなりWin -Winの関係が生まれてきた。
「たとえばトイレ消臭やエアダスターなどの消耗品を購入するとき、『過剰な包装や加飾で購入を判断する』という人は少ないですよね。また、この製造法だとバージン製品と証明するために巻くクリアフィルムもいらなくなるので、コストともにゴミも減らせます。高価な化粧品などはパッケージも"ブランド"のうちなので話が変わってきますが、そういったものは大手に任せて、弊社ならではの製造法で勝負することにしたんです」
この製造法とシステムの変更を同時に行うため、R-PiCSの導入は検討開始から1年を要した。
「私自身がITに詳しくないということもあって悩みましたが、"まずはやってみよう"ということで、2013年10月に導入しました」
生産管理システムを構築するために必要な製品や副資材など業務の基本情報である「マスタ」の登録に関わった初期メンバーは4人。「勉強しながら進めていった」という。
「座学でマニュアルを読み込むことも大事ですが、現場で実際に使ったからこそ覚えられること、わかることがありました。最初は大変で、経理から『大丈夫ですか?』と心配されてしまったこともありました」
また、はじめのうちは従業員に馴染まないという問題もあった。「これまでの業務がシステム化されていませんでしたから、当初は多くの従業員が『工数とは何か?』という感覚。生産管理という考え方に馴染むまでには、少し時間がかかりました」
導入後の効果と今後について
取締役 営業本部
ライフプロダクト 営業部長
田中敏也 氏
しかし、徐々に慣れていくと、従業員の業務に対する意識に変化が生まれたという。
「従業員はパートを含めて50人ほどですが、それぞれに"企業内取引"という観点が芽生えたと思います。製造担当だと『標準原価でつくって営業に渡す』、営業担当だと『原価に経費を含めた金額でお客様に提案する』という意識が生まれた。要するに、ただつくって売るだけではなく、利益率を維持する・高める――コスト面を考えることも含めて自分たちの仕事であり成果なのだ、という認識になったんです」
心持ちだけではなく、働き方にも変化があった。
「製造担当は、今ではストップウォッチを使って作業に取り組むようになりました。以前のように『部材がないから今日はつくれません』ということもなく、来月、来来月まで生産スケジュールを立てられるようになりました。製造業の基本ではありますが、弊社にとっては大きな進歩です」
また、余分な在庫が減るという、目に見えてわかるメリットもあった。
「以前は資材在庫を詰め込んだ段ボールが山ほどあったのですが、今は必要個数を管理できているので、定期的に訪れる監査役が『減りましたね』と驚くほど少なくなりました。特に、目が届きにくく過剰在庫になりやすい包装資材や副資材はぐっと減った。以前、社長から『不必要な資材に積もる埃が何かわかるか?これは金利と同じなんだ」と言われましたが、いくら黒字を出していても、現金がなければ会社は潰れてしまう。在庫の減少は、目に見えるコスト削減だと感じます』
導入から1年が経過した今はデータの打ち込みにも慣れ、「月末に諸数字を出す際に、経理が望むタイミングで提示できるようになってきました」と話す田中氏。今後はどう活用していくのだろうか。
「まだ1年ということで、データの積み重ねが足りない部分もありますが、コスト部分に関してはこれから『工数に問題はないか?』『賃率は適正か?』などの分析を始める予定です。あと2、3年も経てばデータの蓄積が進み、運用の精度が高まるはずなので、さらに実業務とシステムの融合をすすめていきたいですね。項目の追加やアレンジなど機能面に関しては、もう少し使い慣れてからですね。実際に使っている社員に『こういう項目がほしい』『こうすればもっとやりやすい』などと要望を出してもらい、使い勝手を向上させていければと考えています。そしてゆくゆくは、社員ごとの工数などの勤務分析表を作って社員教育にも活用しながら、さらなる業務の効率化を図れたらと思っています」
前述した、フィルムで包んだパッケージのエアゾール缶は現在、実用新案を取得したという。同社の製品がテレビドラマの小道具として映り込んだこともあり、「流通していると感じる」と田中氏。革新的なアイデアに業務の効率化がプラスされ、同社の製品を今後、街中で見かけることが増えていくかもしれない。